ハムレットのシンメトリー

Hamlet's Questions and One Man's Answers

2021-01-01から1年間の記事一覧

30.『ハムレット』の最も中心にある対称ペア

さて、今回はいよいよ『ハムレット』のシンメトリー構成の最後のペアを探します。シンメトリー構成の表に残っている空欄は1つだけで、それは第三幕第三場クローディアスが神に自らの罪の許しを祈っているところを、身を隠したハムレットが背後からクローディ…

29. デンマークの悲劇の誕生

前回は精気という概念を通してみることによって、オフィーリアの歌う歌とハムレットの手紙とその詩がいかに対称的に描かれているか見ました。それは単に、歌われた歌と書かれた言葉という形式の面だけでなく、その本質的な部分において対称的に描かれている…

28.歌は精気にどのように作用するか

前回は、ハムレットの手紙とその詩とオフィーリアの歌う歌を、対称に描かれているものとして、その手紙と詩を心の内を他者に伝えるための媒体として考察しました。今回は、前回考察したこの過程をルネサンス思想の下に、読み直してみたいと思います。 このブ…

27.ハムレットの手紙と対称となるのは

今回から、再び『ハムレット』のシンメトリー構成に戻ります。前回まで、対称構成の表はだいぶ埋まり、あとは2か所が空白になっているだけです。 今回は、第二幕第二場でオフィーリアにあてたハムレットからのラブレターをポローニアスが面白半分に批評しな…

26.ルネサンスの憂鬱質

前回は、フォーティンブラスが粘液質を、レアティーズが胆汁質を表しているらしい事を指摘し、四体液質がそれぞれどの人物に描かれているかを見ました。今回は『ハムレット』のテーマの一つでもある憂鬱質が、どのような背景を持っているのか、ルネサンスの…

25.四体液説と気質

前回は『ハムレット』第二幕第二場のフォーティンブラスについてと、第四幕第五場のレアティーズとが、対称的に描かれており、どうやらこれらは四体液説による気質のうち、粘液質と胆汁質が表現されているらしいという事を見てきました。 今回も、引き続きこ…

24.特定の体液が過剰な人たち

前回は、第二幕第二場のフォーティンブラスの話題に関連して、フォーティンブラスがハムレットと対称的に描かれており、レアティーズがハムレットと対照的に描かれている事を指摘しました。対称的と対照的の意味がなんだか混ざってきそうなので、表現を変え…

23.父を殺された息子たち

前回は、ルネサンスにおいて重要な概念である精気というものが、どのようなものであるかを記してみました。今回はこのブログの主題である『ハムレット』のシンメトリー構成に戻ります。 これまでに解説してきた『ハムレット』の対称ペアはA|a 亡霊と亡骸、B|…

22.精気 = プネウマ ⇒ スピリトゥス ⇒ スピリット ≒ 気

前回は精気というものがルネサンス思想の中で重要な要素であり、シェイクスピアの作品、とりわけ『ハムレット』の読解を深めるために、この概念が必要なのではないかとしました。一般的には『ハムレット』の読解に精気の概念などが必要だなどとは言われるこ…

21.弔いと結婚、記憶と思い

『ハムレット』のシンメトリー構成の続きですが、ここまではまだ劇中劇の対称ペアがハムレットのイギリスへの渡航であることが明らかになっただけです。これを対称ペアの表に書き加えてみましょう。まだ半分の対称ペアが空白ですが、今回は第一幕第二場の王…

20.自問自答、ここが問題である

2021年7月31日現在、このブログは、わずかな人たちに読まれているだけで、コメントや質問、反論などはいただいていないのですが、もしかしたら今後、より多くの人たちに読まれることになった場合、これまでの『ハムレット』解釈と方向性が違うため、疑問や反…

19.ここまでの要約

前回は、『ハムレット』のシンメトリー構成の中で、劇中劇とハムレットのイギリスへの渡航から、世界劇場にまで考察を広げていきました。この劇中劇とイギリスへの渡航の対称ペアは、それ以前に考察した父ハムレットの亡霊と息子ハムレットの亡骸の対称ペア…

18.グローブ座の To be, or not to be

前回は『ジュリアス・シーザー』のキャシアスの台詞の構造と『ハムレット』の構造について、両者に共通するものがある事を指摘しました。そして、キャシアスの台詞の「われらのこの崇高な場面」という言葉が、シェイクスピア自身の実際の経験をもとにしてい…

17.『ジュリアス・シーザー』キャシアスの台詞について、さらに

前回は『ハムレット』と「世界劇場」の関係を、シェイクスピアの他の作品をもとに考察しました。そして、そこからシェイクスピアは「この世は舞台、男も女もみな役者だ」といった場合の、その「世界劇場」の観客として、一つには神、そしてもう一つには後世…

16.世界劇場とその観客

前回は『ハムレット』の中に「世界劇場」の理念が含まれているのかもしれないと仮定してみました。そして『ハムレット』に「世界劇場」の理念が組み込まれているのであれば、それによって何が表現されているのかを考えました。今回はさらにこの『ハムレット…

15.劇場としてのイギリス

前回は、ハムレットに語られたイギリスが、舞台の外に広がっているという事を示して、閉幕後のホレイショーの語りと対比して考察しました。 『ハムレット』におけるイギリスと閉幕後のホレイショーの語りは、ともに重要な要素だと思われるのですが、両方とも…

14.イギリスの内の舞台

『ハムレット』は現在に至るまで、あらゆる国のあらゆる劇場で演じられてきました。おそらくシェイクスピア自身は、将来において世界各国の劇場で演じられるなどは想定していなかったかもしれません。しかしシェイクスピアが『ハムレット』の上演される劇場…

13.舞台の彼方のイギリス

前回は『ハムレット』のシンメトリー構成において、劇中劇と対称となるのはハムレットのイギリスへの渡航であるという事を示して、その二つがどのように対称的に作られているかをみました。そして、劇中劇が舞台内に集中するように作られているのに対して、…

12.劇中劇とシンメトリーとなるのは

ハムレットのイギリスへの渡航です。これが『ハムレット』の中で劇中劇とシンメトリーとなります。 しかし、ハムレットのイギリスへの渡航とはどのようなものだったでしょうか?『ハムレット』を読むか観たのがかなり以前の方であれば、劇中劇は印象に残って…

11.『ハムレット』の劇外劇

前回は劇中劇と閉幕後のホレイショーの語りとの関係を考察し、この二つが対称的に作られているという事を指摘しました。少し入り組んでいましたので、もう一度この二つの関係を見ていきたいと思います。 まず、劇中劇とは『ハムレット』の中でどういうものか…

10.語りから演劇へ

前回は、『ハムレット』という戯曲がその登場人物の一人であるホレイショーが語るものを舞台上に見えるようにしたものではないか、という説を立ててみました。さらに、それによって『ハムレット』が円環するような構造を持つという仮説にいたりました。 そこ…

9.ハムレットウロボロス

前回までに『ハムレット』におけるTo be は開幕から閉幕までの間の舞台上で目に見え、耳で聞くことのできる表現であり、それに対してNot to beは開幕までの時間と閉幕からの時間に設定されている事柄である事をみました。これらは『ハムレット』を見ている観…

8.実体のない存在 —語り、亡霊—

今回も引き続き第一幕第一場と第五幕第二場の考察を行います。前回は第五幕第二場のハムレットの亡骸が壇上に安置されるのは、『ハムレット』の閉幕後に設定されているという事を確認しました。そこから壇上に安置されるハムレットの亡骸は観客の視点からNot…

7.舞台の上に To be,or not to be

前回、前々回と父ハムレットの亡霊とハムレットの亡骸の対称性を検討してきましたが、まだ他にも色々と比較できる箇所があり面白いですので、今回も引き続き亡霊と亡骸についてです。 次に引用するのは第一幕第一場で亡霊を目にしたホレイショーが亡霊に問い…

6.語られたフォーティンブラス、そして現れたフォーティンブラス

前回は父ハムレットの亡霊と息子ハムレットの亡骸の対称性を検討し、それぞれを霊と体とした際に、あのクエスチョンを投げかけてみました。To be か Not to be か? そして亡霊が物質的な視点から見ると Not to beとしてあり、霊的な視点から見れば To beで…

5.父ハムレットの亡霊と息子ハムレットの亡骸

父ハムレットの亡霊とハムレットの亡骸の対称関係からみていきましょう。 『ハムレット』全体の中に父ハムレットの亡霊の登場は3カ所あります。第一幕第一場で歩哨とホレイショーに現れ無言で去っていく場面、第一幕第四場から五場にかけて自らが殺害された…

4.『ハムレット』の ABCDEF| fedcba 構成

前回はルネサンスのシンメトリーについて、ラファエロの『アテネの学堂』とウィトルウィウス的人体図を例としてみました。そしてシンメトリー構成はルネサンス芸術の特徴の一つであるため『ハムレット』の中にシンメトリー構成が作られているという事もあり…

3.ルネサンスのシンメトリー

前回、『ハムレット』の中にシンメトリー構成があるのではないかとしたキース・ブラウンの説を検討してみました。*1 私自身も『ハムレット』の中にシンメトリー構成を探してみたわけですが、その結果を記す前に、前回シンメトリーがルネサンス期の芸術におい…

2.『ハムレット』のシンメトリー

私がハムレットの研究をするのに参考にし影響を受けた本を紹介します。 そのものずばり『ハムレット研究』 後藤武士 研究社出版 1991年です。この本のはしがきにF.P.ウィルソン教授の言葉として次のように書かれています。 「Hamletに関する書物を全部読むこ…

1.”To be, or not to be, that is the question. “ その何が問題か?

”To be, or not to be, that is the question. “とはシェイクスピア作品のもっとも有名な台詞のひとつでしょう。これは『ハムレット』第三幕第一場でのハムレットの独白での台詞です。ハムレットはこの長い独白で死についてを考え、それを眠りに例え、さらに…