ハムレットのシンメトリー

Hamlet's Questions and One Man's Answers

11.『ハムレット』の劇外劇

 前回は劇中劇と閉幕後のホレイショーの語りとの関係を考察し、この二つが対称的に作られているという事を指摘しました。少し入り組んでいましたので、もう一度この二つの関係を見ていきたいと思います。

 まず、劇中劇とは『ハムレット』の中でどういうものかといいますと、ハムレットが亡霊の語ったことが真実であるかどうかの確証を得るために、それを演劇としたものがこの劇中劇です。

 それに対してホレイショーが『ハムレット』の最終場面で語るという語り、それを演劇としたものが『ハムレット』それ自体です。

 この劇中劇と閉幕後のホレイショーの語りは、両方とも目に見える形を持たない語りが演劇として目に見えるように形づくられるという共通点を持っています。そしてその事によってこの二つは対称的であるという事ができます。

 また、別の面からこの二つの関係を探ってみましょう。劇中劇という言葉を逆転させると、劇外劇という言葉になります。劇外劇などという言葉はこれまで使われたことはありませんし、概念として想像することも難しいものがあります。しかしホレイショーの閉幕後の語りは、閉幕後ですから劇の外にあります。そしてこの語りを演劇としたのが『ハムレット』であるとすると、これが劇中劇に対する劇外劇という形をとっているという事ができます。前回の最後にも指摘しましたが、閉幕後のホレイショーの語りを『ハムレット』劇とみなすと、それは劇の外に出たかと思うと、また劇に戻ってくるような形となります。それは劇の中に形作られた劇と対称的なのです。

 さて、このブログの趣旨は『ハムレット』の中にシンメトリー構成を見つけ、それによって『ハムレット』の新たな解釈を追求していくというものです。そうすると劇中劇のシンメトリー構成での対称ペアは閉幕後のホレイショーの語りになるのでしょうか?

 これを確認するために、120日の記事に掲載しましたABCDEF| fedcba構成 の表と図をここでもう一度見てみましょう。

 

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ABCDEF| fedcba構成

 このABCDEF| fedcba構成の図で E として示したのが劇中劇です。そしてその対称ペアは 示してあり、これは劇の中ほどに位置しています。そしてこの図は開幕から閉幕までしか示していませんので、閉幕後のホレイショーの語りは欄外になります。

 つまり、確かに劇中劇と閉幕後のホレイショーの語りは深い関係があるのですが、シンメトリー構成での対称ペアではないのです。それでは劇中劇のABCDEF| fedcba構成における対称ペアは何なのでしょうか?

 それはこれまでの記事から類推していくことができるかもしれません。対称ペアは一方がTo beでもう一方がNot to beを表していました。そして劇中劇は劇の中の劇である事からTo beの方でしょう。それは閉幕後のホレイショーの語りがNot to beの側であることからも明らかです。そしてここまで見てきた中で、Not to beとはどのようなものだったでしょうか?Not to beは語りであり、舞台で表現されていない事、曖昧さなどの要素がありました。そして、先ほど考察した劇中劇に対しての劇外劇という概念。これらがヒントになるでしょう。

 ABCDEF| fedcba構成において劇中劇は何を対称ペアとしているでしょうか?

 その答えは次のブログ記事で明かそうと思います。