ハムレットのシンメトリー

Hamlet's Questions and One Man's Answers

ハムレット

52. 『ノースマン』と『ハムレット』

とても寒いです。私の家は冬期間、通常はすき間風が室内をそよいでいますが、ここのところの寒気で突風のある日にはすき間雪すら入ってきてしまうのです。一体いつの時代だと思われるでしょうが、昭和初期の家なので仕方ないと思って諦めます。しかし諦めて…

51.Q1の”To be, or not to be”

さて前回からの続きで、『ハムレット』のQ1に関してです。まずは前回のおさらいを簡単に。『ハムレット』にはQ1と呼ばれるテキストがあるのですが、このQ1は通常の『ハムレット』の半分程度の長さしかなく、その内容もあっさりしています。そのためこれは『…

50.『ハムレット』Q1は海賊版なのか?

『ハムレット』にはQ1*1というテキストがあります。第一四つ折版と訳されます。このQ1は「粗悪四つ折版」などと言われたりするのですが、非常に興味深いものなのです。今回はこのQ1に関して一般的な見解とそこにある問題などをまとめてみたいと思います。そ…

49. ”To be, or not to be, that is the question” その問題とは何だったのか?

ウィリアム・シェイクスピア 前々回の47.アムレートからハムレット - ハムレットのシンメトリーの記事では、ニューケンブリッジ版『ハムレット』の序文で述べられている『ハムレット』の題材となったアムレートの物語と『ハムレット』を比較した際の6つの変…

48. ハムレットのサターンリターン

なかなか前回の続きが書けないでいるので今週のお題でまた書いてみる事にしました。今週のお題「人生最大のピンチ」。これなら『ハムレット』ネタで書ける、そう思った次第です。なぜなら登場人物のほとんどがこの戯曲中に舞台の上で、あるいは舞台の外で死…

47.アムレートからハムレット

シェイクスピアは『ハムレット』をはじめとする多くの戯曲作品の他に詩も残しています。その中でも『ソネット集』はいくつか翻訳もされていて有名かと思います。このソネットというのは詩の形式で十四行詩と呼ばれるように14行で特定の押韻構成があります。…

44.「ハムレットはなぜ復讐を遅らせたか」と100年間問われなかったのはなぜか

『ハムレット』の批評では、なぜハムレットは復讐を先延ばしにしたのかという事が、しばしば問題として取り上げられます。後藤武士の『ハムレット研究』でも第4章が「復讐遷延論」として設けてあり、18世紀から20世紀までの間、この問題がどのように考えら…

43.精気から見る『ハムレット』第三幕第三場

前回は第一幕に登場する父ハムレットの亡霊と、第五幕第二場で死ぬハムレットを、死後の精気のあり方という観点から見ました。精気は肉体と霊魂、見えるものと見えないものを媒介する役割を持ちます。そのため宗教的な場面では、神的な存在との媒体ともなる…

42.ハムレット父と子の霊

前前回は第五幕第一場の墓掘りの場面の考察をしました。この第五幕第一場にハムレットが登場すると、墓掘りはまずハムレットにとって見ず知らずの人々の遺骨を掘り返します。そして次にハムレットが幼い頃に親しんだ宮廷の道化ヨリックの頭蓋骨を取り上げ、…

40.土星の子供としてのハムレット

今回取り上げる場面は、このブログでこれまでほとんど取り上げてこなかった場面です。それは第五幕第一場の道化の墓掘りが登場する場面です。第五幕第一場は前半と後半に大きく分けることができます。前半はこの墓掘りたちの場面で後半はオフィーリアの葬儀…

35.『ハムレット』を「鬼」で解釈する

このブログは『ハムレット』の新たな解釈を公開するのを目的としているのですが、前々回はてなブログの「今週のお題」にそって書いてみたら、わりと面白いうえ新たな発見もあったりしたので、今回もそれを期待してお題で書いてみようと思います。それで、「…

34. 鏡としての『ハムレット』

前々回からの続きです。前々回は、まずABCDEF| fedcba構成の中心は閉幕後のホレイショーの語りと対応関係を持つのではないかと仮定しました。そしてそのABCDEF| fedcba構成の中心は、第三幕第四場のハムレットがガートルードに向ける鏡であることがわかりま…

30.『ハムレット』の最も中心にある対称ペア

さて、今回はいよいよ『ハムレット』のシンメトリー構成の最後のペアを探します。シンメトリー構成の表に残っている空欄は1つだけで、それは第三幕第三場クローディアスが神に自らの罪の許しを祈っているところを、身を隠したハムレットが背後からクローディ…

29. デンマークの悲劇の誕生

前回は精気という概念を通してみることによって、オフィーリアの歌う歌とハムレットの手紙とその詩がいかに対称的に描かれているか見ました。それは単に、歌われた歌と書かれた言葉という形式の面だけでなく、その本質的な部分において対称的に描かれている…

27.ハムレットの手紙と対称となるのは

今回から、再び『ハムレット』のシンメトリー構成に戻ります。前回まで、対称構成の表はだいぶ埋まり、あとは2か所が空白になっているだけです。 今回は、第二幕第二場でオフィーリアにあてたハムレットからのラブレターをポローニアスが面白半分に批評しな…

26.ルネサンスの憂鬱質

前回は、フォーティンブラスが粘液質を、レアティーズが胆汁質を表しているらしい事を指摘し、四体液質がそれぞれどの人物に描かれているかを見ました。今回は『ハムレット』のテーマの一つでもある憂鬱質が、どのような背景を持っているのか、ルネサンスの…

25.四体液説と気質

前回は『ハムレット』第二幕第二場のフォーティンブラスについてと、第四幕第五場のレアティーズとが、対称的に描かれており、どうやらこれらは四体液説による気質のうち、粘液質と胆汁質が表現されているらしいという事を見てきました。 今回も、引き続きこ…

24.特定の体液が過剰な人たち

前回は、第二幕第二場のフォーティンブラスの話題に関連して、フォーティンブラスがハムレットと対称的に描かれており、レアティーズがハムレットと対照的に描かれている事を指摘しました。対称的と対照的の意味がなんだか混ざってきそうなので、表現を変え…

18.グローブ座の To be, or not to be

前回は『ジュリアス・シーザー』のキャシアスの台詞の構造と『ハムレット』の構造について、両者に共通するものがある事を指摘しました。そして、キャシアスの台詞の「われらのこの崇高な場面」という言葉が、シェイクスピア自身の実際の経験をもとにしてい…

15.劇場としてのイギリス

前回は、ハムレットに語られたイギリスが、舞台の外に広がっているという事を示して、閉幕後のホレイショーの語りと対比して考察しました。 『ハムレット』におけるイギリスと閉幕後のホレイショーの語りは、ともに重要な要素だと思われるのですが、両方とも…

13.舞台の彼方のイギリス

前回は『ハムレット』のシンメトリー構成において、劇中劇と対称となるのはハムレットのイギリスへの渡航であるという事を示して、その二つがどのように対称的に作られているかをみました。そして、劇中劇が舞台内に集中するように作られているのに対して、…

12.劇中劇とシンメトリーとなるのは

ハムレットのイギリスへの渡航です。これが『ハムレット』の中で劇中劇とシンメトリーとなります。 しかし、ハムレットのイギリスへの渡航とはどのようなものだったでしょうか?『ハムレット』を読むか観たのがかなり以前の方であれば、劇中劇は印象に残って…

10.語りから演劇へ

前回は、『ハムレット』という戯曲がその登場人物の一人であるホレイショーが語るものを舞台上に見えるようにしたものではないか、という説を立ててみました。さらに、それによって『ハムレット』が円環するような構造を持つという仮説にいたりました。 そこ…

8.実体のない存在 —語り、亡霊—

今回も引き続き第一幕第一場と第五幕第二場の考察を行います。前回は第五幕第二場のハムレットの亡骸が壇上に安置されるのは、『ハムレット』の閉幕後に設定されているという事を確認しました。そこから壇上に安置されるハムレットの亡骸は観客の視点からNot…

7.舞台の上に To be,or not to be

前回、前々回と父ハムレットの亡霊とハムレットの亡骸の対称性を検討してきましたが、まだ他にも色々と比較できる箇所があり面白いですので、今回も引き続き亡霊と亡骸についてです。 次に引用するのは第一幕第一場で亡霊を目にしたホレイショーが亡霊に問い…

5.父ハムレットの亡霊と息子ハムレットの亡骸

父ハムレットの亡霊とハムレットの亡骸の対称関係からみていきましょう。 『ハムレット』全体の中に父ハムレットの亡霊の登場は3カ所あります。第一幕第一場で歩哨とホレイショーに現れ無言で去っていく場面、第一幕第四場から五場にかけて自らが殺害された…