ハムレットのシンメトリー

Hamlet's Questions and One Man's Answers

4.『ハムレット』の ABCDEF| fedcba 構成


 前回はルネサンスのシンメトリーについて、ラファエロの『アテネの学堂』とウィトルウィウス的人体図を例としてみました。そしてシンメトリー構成はルネサンス芸術の特徴の一つであるため『ハムレット』の中にシンメトリー構成が作られているという事もあり得るのではないかと考えました。

 それで私も『ハムレット』の中にシンメトリー構成を探してみました。そしてキース・ブラウンのものよりもしっくりくるシンメトリーがいくつか見つかりました。キース・ブラウンのものはABCDEF/FEDCBA symmetriesとされていましたので、それと区別する意味でABCDEF| fedcba構成と呼ぼうと思います。以下の表に記します。

 

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 父の亡霊とハムレットの亡骸の対称関係、結婚式と葬式の対称関係はほぼキース・ブラウンのものと一緒です。もったいぶっているようですが、c d e f を空欄としました。これはこのブログを読んでくださっている方々がこの表のCDEFの欄に書かれたものをヒントにして『ハムレット』の中を対称となる箇所を探してみたら楽しめるのではないかと思ったためです。このブログの副題がHamlet's Questions and One Man's answersですから、問題と答えの形式を取り入れてみたいと思ったわけです。それぞれの対称となると思われる箇所は今後のブログに投稿していく予定です。

 もしかしたらシェイクスピアもこのような問題と答え合わせのようなことをやったのではないかと妄想しています。それでなければ、このような凝った構成で執筆して誰にも気づかれず指摘されないのではさみしいですからね。 

 さて、この表のシンメトリーの関係をより分かりやすく示したのが下の図です。実線は開幕から閉幕までを表します。アルファベットは上の表で示された事象を表し、数字はそれが位置する幕と場を示します。アルファベットを結ぶ弧を描いた曲線は対称関係を示します。

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ABCDEF| fedcba構成

 開幕後のAは胸壁上に父ハムレットの亡霊が登場する箇所です。これと弧で結ばれているaは閉幕前、壇上に安置されるハムレットの亡骸です。この二つは亡霊と亡骸とで対称関係になっているように思われます。

 次のBとして示した箇所は第一幕第二場のガートルードとクローディアスの結婚式です。それと対応するのが第五幕第二場オフィーリアの葬式です。これをbとして示します。

 Cは「フォーティンブラスが無法者を集め領土奪還を企てるが差し止められる」としました。フォーティンブラスとは、父ハムレットに倒されたノルウェーの先王の息子です。そして父である先王もフォーティンブラスという同じ名前です。これはハムレットとその父と同じです。

 第二幕第二場ではフォーティンブラスが登場するわけではありません。そうではなくクローディアスがフォーティンブラスの企てを阻止するためにノルウェーに送った使節からの報告を受ける場面です。ノルウェー王の叱責を受けてフォーティンブラスの企ては差し止められたという事が、使節ヴォルティマンドによって報告されます。

 この逸話は『ハムレット』のメインのストーリーではないため、観客の印象には残らないかもしれません。そもそも上演の際にカットされている可能性もあります。しかしこれと対称となる箇所が後半には描かれています。 

 Dは「オフィーリアにあてたハムレットのラブレターをポローニアスが面白半分に批評しながら読む」としました。これは先のヴォルティマンドが退場した後の場面です。これも後半に対称となる場面があります。

 Eは劇中劇の場面で、これは第三幕第二場にあります。ハムレットが父の亡霊から父がクローディアスに毒殺されたのだと聞いた後、その事を確かめるために上演した劇です。やはりこの劇中劇に対称となるのが後半にあります。しかしこれは他の対称ペアと違ってかなりわかりにくいと思いますので、注意深く、少しひねって『ハムレット』の中を探さなければ見つからないかもしれません。

 Fは第三幕第三場で、劇中劇を見た後のクローディアスが兄殺しの罪の許しを得ようと祈る場面で、その背後からハムレットが、父の復讐を果たそうとうかがうところです。同様にこれも後半に対称となる場面があります。

 このFの場面が第三幕第三場でbの場面が第五幕第一場です。そうすると、CDEFに対象となるcdef の場面は第三幕第一場から第五幕第一場の間に見つかるはずです。