ハムレットのシンメトリー

Hamlet's Questions and One Man's Answers

46.フォリオと『ハムレット』対称構成

 前回は『ハムレット』のテキストに色違いの付箋を貼ってみました。そのようにすることで『ハムレット』の対称構成が実際に目に見えるようになりました。このように対称構成が目に見えるようになると、シェイクスピアの創作が身近に感じられるとともに、より深くその秘密に分け入った気持ちになる事ができます。今回は、前回の作業を踏まえて『ハムレット』の創作に分け入ってみたいと思います。

 さて、これまでのブログ記事でも何度か話題にしたことがあるのですが、『ハムレット』のテキストには、F1Q2Q1といったものがあります。F1とはファースト・フォリオの略称で、これは第一二つ折り版(だいいちふたつおりばん)と訳されます。Q2の方はセカンド・クオートで、第二四つ折り版(だいによつおりばん)です。

ファースト・フォリオの『ハムレット』最初のページ

 

 この二つ折り、四つ折りという言葉は、その本を作る際の印刷全紙の折り方です。二つ折版は印刷全紙を1回折ってそれを重ねて製本したもの、四つ折版は2回折ったものを重ねて製本したものです。この二つ折版の印刷製本に関して、研究社シェイクスピア選集の巻末に詳しい解説が図とともに載っていますので引用します。

 

First Folioの組み版はページ順に行われたのではなかった。この Folioは‘folio insixes’という印刷製本で、印刷用全紙を3枚重ねて二つ折りにし6葉12ページで「帖」(quire)をつくる。この帖が製本の単位になる。First Folioではまずいちばん内側に当たる6,7ページ目が組まれた。つづいてその裏側の5,8ページ。つまり組み版の順序は6,7‐5,8/4,9‐3,10/2,11‐1,12ということになる。

*1

 

このようにフォリオでは、印刷はページの順に刷られるのではなく6,7が同じ面に、その裏に5,8が、4,9が同じ面に、3,10がその裏に印刷にされることになります。

 さて、私のブログをはじめから読んでくださっている人は、この図を見て何か気づかないでしょうか?それは『ハムレット』のABCDEF| fedcba構成*2

を思い起こさせることです。実際、私はこの研究社版の『ハムレット』を書店で立ち読みして、この図が目に飛び込んだ時「やられた、先に明かされていた」と思ってしまったのです。ABCDEF| fedcba構成を図解したものだと勘違いしたのです。

 しかし、それは違っていました。実際はフォリオの印刷製本の綴じ方だったのです。しかしこの図の数字をアルファベットに置き換えるとそのままABCDEF| fedcba構成の図解のようになるのです。

この事は何を意味するのでしょう?

 これはおそらく、シェイクスピアフォリオが印刷され製本されていく過程を眺めて、あるいはばらけてしまったフォリオによる書籍を見て、この『ハムレット』のABCDEF| fedcba構成を思いついたのではないかと思うのです。ABCDEF| fedcba構成の対応関係がほぼ6組であるのも、このフォリオの 「帖」が6葉12ページで組まれていたためなのでしょう。そして、おそらくは実際に組まれた3枚の白紙の「帖」を創作のメモとして構成を考えながら書き進んでいったのではないでしょうか?半分に折った3枚の全紙の一方にTo be を、もう一方にNot to beとして、それ以前にあったハムレットの題材をもとに創作していったのです。具体的な証拠となる物があるわけではないですが、私はシェイクスピアが『ハムレット』をこのように創作したのだと確信しています。

*1:大場建治訳、注解 シェイクスピア選集8 ハムレット 研究社 2004年  396ページ

*2:ABCDEF| fedcba構成はこのブログで論述している『ハムレット』の構成の新説。詳しくは

symmetricalhamlet.hatenablog.com

symmetricalhamlet.hatenablog.com

などを参照